SSブログ
ディベート ブログトップ
- | 次の10件

外国人労働者の論題についてのアドバイス――プラン編(1) [ディベート]

(以下では、AD は “advantage”(利益)を、DA は “disadvantage”(不利益)を表わします。)


前回も書きましたが、外国人労働者の論題では、プランの書き方が難しい――つまり、あまり深く考えないでプランを書くと、具体的に何を行なうのかよく分からない条項ばかりになりやすい――という傾向があるみたいです。

例外的に、アムネスティー(「恩赦」という意味ですが、ここでは現時点での不法滞在や不法就労を不問とすることを表わします)を行うという条項は具体的ですが、これは一回限りのものなので、決してプランの主要部分ではないはずです。

今回は、プランが不明瞭になりやすい原因と、その対策について考えてみます。


最初に考えなければならないのは、論題とプランとの関係です。論題によっては、そのままプランとして通用するくらいに文言が具体的なものと、そうではないものとが存在します。例えば、「死刑/日米安全保障条約を廃止すべきである」などは前者、「刑事裁判において証拠として認められる範囲を拡大すべきである」などは後者です。
(さりげなく、政策ディベートでものすごく重要かつ基本的なことを書いています。)

では、今回の「認めるべきである」や、似た意味である「許可/合法化すべきである」という文言についてはどうかというと、私は後者(そのままではプランとしては通用しない)に分類しています。なぜなら、「行為X を認める」ためには、現在の制度がどうであるかによって、やることが変わってくるからです。やることとして分かりやすいのは、以下のどちらかの場合でしょう。


  1. 現在、ある法律によって X が明確に禁止されているのであれば、「X を認める」ためには その法律を廃止する。
  2. 現在、X は禁止も許可も明確にはされていないのであれば、「X を認める」ためには 新しい法律や解釈によって X が合法であると宣言する。


別に、こう書かなければならないという事ではなくて、上記の2つのどちらかであれば、プランが書きやすいということです。

(今回の論題の文言は「~労働を認める」ではなくて「~労働者を認める」なのですが、この点についてはあえて何も言いません。)


ところが、現在の出入国管理関係法令などを調べてみると、上記の2つのパターンのどちらでもない ことが分かります。大雑把に書けば、以下の通りです。(詳細は「外国人労働者の論題についての補足」を参照してください。)

  • 出入国管理関係法令等によれば、外国人が日本で働くためには、それに対応した在留資格が必要。(決して、労働が全面的に禁止されているわけではない)
  • 在留資格のうち、「定住者」という在留資格には就労の制限がない。(つまり、制度の上では既に、この資格さえ持っていれば全ての職種での労働が認められている。)
  • しかし現在は、「定住者」という在留資格を取得できるのは、日系人と難民(および法務大臣が認めた人)に限定されている。
  • 一方、「特定活動」という在留資格もあり、これを持っていると、出入国管理関係法令が規定している以外の特定の職種で働くこともできる。(「特定活動」を持っている外国人は一つの職種でしか働けないが、日本全体で見ると様々な職種で外国人が働いていることになる。)


「特定活動」について若干補足します。例えば、外国人が日本で看護の仕事をする場合を考えてみます。出入国管理関係法令で規定されている在留資格を見ても、看護の仕事のためのものは存在しません。(「医療」という在留資格なら存在しますが、これは日本の医師資格や看護資格を既に持っている外国人のみが取得できるという敷居の高いものだそうです。) でも、現在既にフィリピンやインドネシアから看護師を受け入れています。これはどういう在留資格に基づいているのかというと、それが「特定活動」なのだそうです。(参考: http://iwata-gyosei.com/z10_tokutei.html
こんな感じで、いろんな職種について「特殊活動」の在留資格を発行していくと、最終的にはほとんど全ての職種で外国人が働いていることになります。(資格を取得した本人は一つの職種でしか働けませんが。)


今の制度はこんな感じです。専門家ではないので確証はないのですが、「制度だけ見たら外国人の労働に対して強い制限があるようには思えないが、運用によって強い制限が発生している」といった感じでしょうか?



ここまでをまとめると、プランを書くときは、今の制度を考慮し、それとの差分を書くようにしないと、具体的に何を行なうのか不明なものになってしまいまいやすいということです。



では、今の制度を考慮に入れてプランを書くとするとどんな感じになりそうか――これについては、次回に書きます。



外国人労働者の論題についてのアドバイス――DA編 [ディベート]



(以下、AD, DA は、それぞれ“advantage”(利益), “disadvantge”(不利益)を表わします。)

2005年に同様の論題の下でジャッジしたときに強く感じたのですが、この論題では出てくる議論が「ピンボケ」になりやすいようです。主に以下の3点でそう感じました。

  • プランで具体的に何をするのかが不明
  • プランによって状況がどう変化するのかも不明
  • DAの具体的なシナリオも不明


今回は、DA について簡単なアドバイスをします。「外国人労働者を受け入れると犯罪が増加」という DA は、イシューとして真っ先に作りたくなるかもしれませんが、犯罪増加までのシナリオを、ステレオタイプや憶測なしできっちりと示そうとすると結構大変です。

以下は、当時そういう説明不足の DA を聞いたときに感じたことであり、とあるメーリングリストに書いたものの再掲です。



最初に全体的な感想を一言で言うと、以下の通りです。

    「分からないことだらけだ!」

つまり、仮に自分が当事者、つまり外国人労働者や雇用主や法務省や厚生労働省などになったと想定しても、プランがない場合とある場合とで、身の回りの状況がどのようなのか、今ひとつイメージできないのです。

(中略)

次は DA(犯罪)について。

仮に自分が外国人(まだ日本には来ていない)だとします。
プランがないときは日本に行く気が起きないのか、
それとも行きたいけど単純労働の在留資格が発行されないので断念しているのか、
他の在留資格で入国して不法に働いているけど犯罪は起こさないのか、どれなんでしょうか?

一方、プランがあるときは、日本に急に行きたくなるのか、
それとも在留資格が発行されて行けるようになるのか、
入国してから犯罪を起こすようになるのか、どれなんでしょうか?

また、来日の目的も、はじめから犯罪目的なのか、
それとも最初は労働目的なのにその後解雇されてから犯罪に手を染めてしまうのか?

はたまた、短期間のつもりで来日しているのか(だったら、解雇された時点で帰国しても良さそうだ)、
それとも永久に滞在するつもりなのか?

こんな感じで、「?」がいっぱいです。もちろん、人によって事情は異なるので十把一絡げは禁物ですが、それでも主要なシナリオというのはあるはずです。

こういった疑問点にきちんと答えるような感じで作っていくと、説得力のあるイシューになると思います。



ここからは、この DA を残しやすくするためのアドバイスです。


DA の先頭のリンクを「外国人がたくさんやってくる」というシナリオにすると、実は証明に苦労します。ケースには「今でも外国人労働者は存在する」という話が入っているでしょうから、それと比べてどの程度増えるかを示す必要がありますし、そもそも彼らは日本での外国人労働者受け入れ政策が変わったことをどうやって知り得るのでしょうか?

でも、「プランによって日本国内の外国人がユニークに増える」ということを示すだけなら、もっと簡単に証明できるリンクがあります。それは、「たくさんやってくる」の代わりに「帰らなくなる」と示すことです。

現在、合法・非合法を問わず、労働目的で日本にやってくる人はいますが、その多くは、一定期間後に帰国している――みたいなことが書いてある文献は存在するはずです。一方、プランがあると、待遇がよくなるので、彼らは日本に滞在し続けるようになる――みたいな文献もあるはずです。こういうシナリオにすると、ケースに入っている「今でも外国人労働者は存在する」「プランによって労働条件が改善する」という 2つの話をどちらも認めた上で、DA へのリンクを示すことができます。つまり、流入は一定でも流出が減れば、国内の人数は増えるというわけです。

DA の最初のリンクをこのように示した場合の注意点を1点だけ挙げます。このリンクはケースの「労働条件がよくなる」という AD に依存しています。だから、この AD に対してケースアタックをすると、AD だけでなく DA も小さくなってしまいます。つまり、いくらアタックしても、DA が AD を逆転できません。だからこの DA は、「労働条件が改善する」という AD が丸々残ってもそれを凌駕できるだけの大きさである必要があります。

(逆に肯定側からすると、「労働条件が改善する」という AD を切り捨てれば、この AD に依存した DA も道連れにすることができるわけです。)


――今回は、ここまでとします。


(余談)
2005年当時、ジャッジをしていて次のような議論のやり取りを見ました。確か DA には「犯罪集団が来日してくる」みたいなシナリオが入っていました(例によって詳細不明なのですが、ここではその点には触れません)。それに対して肯定側は「彼らが元いた国では犯罪集団が減るのだから、全世界で見たら犯罪の件数は変わっていないはず」と反論していました。あなたがジャッジなら、この反論をどう扱いますか?


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

外国人労働者の論題についての補足 [ディベート]

(2/16修正: リンク切れとなっていた URL をできる限り復活させました。)




JDA の論題が「日本国は原則全ての職種において外国人労働者を認めるべきである」に決まりました。
自分にとって外国人労働者のトピックは馴染みが深く、15年以上前にモデルケースの作成に関わったほか、2005年には出入国管理法令などの文面を読んでみたりもしています。


今回は、その 2005年に調査して とあるメーリングリストに投稿したものを、若干編集して以下に掲載します。
ちなみに、2005年前期の論題は、以下の通りです。


「日本政府は出入国管理法令を改正し、原則すべての職種で
海外からの移住労働者の雇用を認めるべきである」


Resolved: That the Japanese government should allow the employment
of migrant workers from overseas in all or most workplaces by
amending the immigration laws.


----------------------------------------------------------------
投稿者: 廣江 厚夫
Date: 2005年5月6日(金) 午後2時30分
タイトル: 「移住労働者の雇用」と「在留資格」との関係(その1)


(前略)
表題の「移住労働者の雇用」と「在留資格」
との関係についていろいろと調べてみました。その結果を 3回に分けて
(長いので)発表したいと思います。



ただ、私は専門家ではないので、調査結果が間違っている可能性が大い
にあります。間違いを見つけたらぜひ指摘してください。

なお、入出国に関係する法令などは、法務省の以下のページで読むこと
ができます。ぜひ各自で読んでみることをお奨めします。

http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyukan_hourei_index.html


------------------------------------------

「[00319] 反省会の写真&試合の感想」でも少し書きましたが、ケース
を聞いても、「移住労働者の雇用を認める」ことと「在留資格」との
関係や、さらには出入国管理関係法令(または入管法)の改正がなぜ
必要なのかといった点が不明でした。そこで、以下の順序で調べてみま
した。


(1)
まず最初に、そもそも入管法と雇用とがどのような関係にあるのかが
不明でした。(単純に考えると無関係そうなのに。)

この点についての調査してみたところ、以下ことが分かりました。

入管法(正式には「出入国管理及び難民認定法」)は、「在留資格」を
持つ人のみ日本への入国を許可するという方針を採っています。「在留
資格」には 27種類あり、「出入国管理及び難民認定法」の別表で規定
されています。別表は、以下のページで参照できます。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S26/S26SE319.html#3000000001000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000

(または、以下のペーにも解説があります。)
http://www.hiraganatimes.com/hp/visa/file/visainfo1.htm


在留資格の中には、就労に関係あるものもあります。「別表一」の「二」
にある資格が主に該当します。これが、入管法と就労とが関係してくる
理由です。

入管法は、外国人の単純労働を直接禁止しているわけではなく、27種類
の在留資格の中に「単純労働」といったものがないことと、資格外の
就労を禁止していることから、結果として禁止ということになっていま
す。

さらに、入管法の罰則規定の中には、不法就労(資格外の就労)を行
なった外国人に対するものの他に、雇った側を処罰するものもあります。
以下の箇所です。
-----
第 七十三条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役
若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
  一  事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者
  二  外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者
  三  業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあつせんした者
-----

まとめると、以下の通りです。

a) 入管法では、在留資格を持つ人のみ入国を認めている。
b) 在留資格の中には、就労に関するものもある。
c) 入管法では、在留資格外の就労をするのは禁止されている(不法就労
となる)。
d) 入管法では、不法就労者を雇用するのも禁止されている。



(以下は余談)
なお、日本の入管法で規定しているような、滞在の資格と就労の資格と
を入国時にまとめて審査する形態を「出入国管理型」と呼ぶのだそうで
す。国によっては、両者を別々に審査するところもあるみたいです。

http://www.gifu-keizai.ac.jp/~takeuchi/c3gaikokujinroudousha.htm
-----
3)外国人管理の形態
  出入国管理型;アメリカ、日本。入国時に一本だてで審査
  在留管理型;入国を認めたうえで、入国した外国人の滞在許可と就労許可
を二本立てで行う。
-----

以下のページの「ビザを取得すれば自動的に国内での在留が認められる
国」と「ビザと国内での在留は別のものとする国」という記述も、同様
の区別を指していると思われます。

http://www.hiraganatimes.com/hp/visa/file/visainfo2.htm


国を会社に、入国を入社に喩えれば、出入国管理型は「配属先が決まっ
た時点で入社も内定する」、在留管理型は「入社が内定してから配属先
が決まる」といった違いですかね?



27種類の在留資格のうち、「短期滞在」(いわゆる観光ビザ)について
も補足しておきます。国によっては日本と「査証免除取決め」を結んで
いて、そのような国から来た人はビザなして入国ができます。こういっ
た人たちは、「短期滞在」という在留資格の扱いだそうです。

最近では、愛知万博の来場促進のため、韓国・台湾からはビザなしで
入国できるようになったのが記憶に新しいところです。



次回は、「移住労働者の雇用を認める」ことと「出入国管理関係法令
の改正」との関係についてです。




----------------------------------------------------------------
投稿者: 廣江 厚夫
Date: 2005年5月6日(金) 午後2時30分
タイトル: 「移住労働者の雇用」と「在留資格」との関係(その2)


廣江です。

今度は「移住労働者の雇用を認める」のに「出入国管理関係法令を改正」
することが必要かどうかを調べてみました。


------------------------------------------------
(2)
「原則すべての職種で……移住労働者の雇用を認め」たことにするため
には、移住労働者たちに一体どのような在留資格を与えればいいのかを
考えてみます。

ここで参考になるのが、日系人の雇用です。1990年の入管法改正によっ
て日系人の雇用が認められたらしいのですが、彼らはどのような在留
資格を持って入国しているのでしょうか?

調べてみたところ、「定住者」という在留資格を持っているようです。

http://home.att.ne.jp/apple/kana_gairen/arcoiris/arcoiris001.htm
(現在はリンク切れ)
-----
また、1990年の入管法改定によって、就労制限のない「定住者」という
在留資格が設けられました。その結果、ニューカマー、特に日系ブラジル
人労働者が大きく増大しました。
-----

「定住者」という在留資格には就労制限がない(日本人と同様にどんな
職にも就ける)ので、「定住者」を単純労働者など任意の職種で雇用す
るのも可というわけです。

http://www.office-ohno.jp/special-topics(sonota-01)25.html
-----
出入国管理及び難民認定法において、日系二世、三世については、「日本
人の配偶者等」又は「定住者」の在留資格により入国が認めれることと
なっています。これらの在留資格をもって入国する者については、出入
国管理及び難民認定法上、在留期間は制限されていますが、その活動に
は制限は有りません。ですからこれらの在留資格を持つ日系人はいわゆ
る単純労働分野での就労も可能となります。
-----

なお、「定住者」の在留資格は、日系人の他に、難民と認定された人に
も与えられるそうです(さらに後述のように、それ以外の人でも法務大
臣の一存で「定住者」の在留資格が与えられることもある)。

言い換えれば、現在は日系人と難民などに限られている「定住者」とい
う在留資格を、それ以外の申請者にも与えるようにすれば、「原則すべ
ての職種で……移住労働者の雇用を認め」たことになりそうです。


(もちろん、他にも方法はいろいろとありそうですが。)




(3)
次に、「日系人や難民認定者以外でも、申請してきた人には定住者の
資格を与えるようにする」ためには今の制度をどのように修正すれば
いいのかを調べてみました。(調べれば調べるほど分からなくなって
くる感もあるのですが……。)


「出入国管理及び難民認定法」では、27種類の在留資格自体は定めてい
ますが、取得条件の詳細や在留期間などは下位の法令である法務省令に
委任しています。実際には、「出入国管理及び難民認定法施行規則」と
呼ばれる省令で詳細が規定されています。

『出入国管理及び難民認定法施行規則』
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyukan_nyukanho_ho14.html

つまり、「出入国管理及び難民認定法」は以下のような二重の構造をし
ています。(今回の論題で「出入国管理関係法令」や“the immigration
laws”(複数形)という文言になっているのは、このような二重構造
を反映させたためだと思われます。)


・出入国管理及び難民認定法(法律)
……在留資格を規定している。

・出入国管理及び難民認定法施行規則(法務省の省令)
……在留資格を与える条件の詳細や在留期間などを規定している。


大枠を法律で規定して詳細を下位の法令(政令や省令など)で規定する
という方法は、政治の世界ではよく行なわれていることで、こうする
ことで事態の変化にすばやく対応できるそうです(法律に比べて、政令
や省令は改廃が容易だから)。


# かつて「~する法律を制定すべきである」という論題のときに、「同
# 内容の政令か省令を制定する」というカウンタープランを出しまくっ
# ていたことを思い出す。今回は同じ手は使えそうにないけれども。


ところがところが、「定住者」という在留資格については、法律に「定
住者:法務大臣が特別な理由を考慮し一定の在留期間を指定して居住を
認める者」と書いてある他は、詳細な条件は書いてありません。つまり、
上記の法律と省令には、「定住者という在留資格は日系人と難民認定者
に限る」といったことは一切書いてないのです。

調べてみたところ、日系人の定住者資格は、法務省の告示に基づいてい
ることが分かりました。「出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二
号の規定に基づき同法別表第二の定住者の項の下欄に掲げる地位を定め
る件」という長い名前の告示です。

http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyukan_hourei_h07-01-01.html

# こんな包括的な認定が、法律や省令ではなくて ただの告示でなされ
# ていたとは、ちょっと意外です。


ところが、さらに調べてみると、上記の告示に該当しない人に対しても
定住者の在留資格が与えられている事例があるみたいです。以下のページ
に詳細が載っています。

http://www.satsukilaw.com/satsuki22.htm

ここに出てくる「2000年2月2日から14日までに、オーバーステイの
イラン人一家、計4家族に在留特別許可が下りた」事例などは、規模こそ
小さいものの、内容はアムネスティーと同じに見えます。こういった
個別対応は、法務省の通達によって行なわれているようです。


「定住者」という在留資格を与える条件についてまとめると、以下の通
りです。

・日系人と難民認定者に対しては、「出入国管理及び難民認定法第七条
 第一項第二号の規定に基づき同法別表第二の定住者の項の下欄に掲げ
 る地位を定める件」という告示に基づいて包括的に与えられる。

・それ以外の人に対しては個別対応であり、そのつど法務省の通達に
 よって与えられる。

なお、「与えられる」と書きましたが、その前に申請を行なっておく
必要があります。申請なしで日本にやってきた場合は、たとえ日系人で
あっても、「短期滞在」の在留資格しかもらえない(査証免除取決めを
締結している国から来た場合)か、入国できない(それ以外の国から来
た場合)かのどちらかです。

では、「定住者」の在留資格をもらうためにはどのような申請が必要か
というと……以下のページあたりを参照してください。

http://www.office-ohno.jp/special-topics(syoumeisyo-01).html



余談ながら(余談が多いなあ)、「個別対応」といえば、まさにその
ための在留資格もあります。「特定活動:法務大臣が個々の外国人に
ついて特に指定する活動」(法文より)がそれです。ワーキングホリ
デー制度で来日して働いている外国人は、この資格を持っているとの
ことです。それほど詳細には調べていませんが、特定の職種のみの就労
を許可するなら「特定活動」の在留資格を与えるだけで実現できそうな
感じです。



長くなったので、最終的なまとめは次のメールに書きます。




----------------------------------------------------------------
投稿者: 廣江 厚夫
Date: 2005年5月6日(金) 午後2時30分
タイトル: 「移住労働者の雇用」と「在留資格」との関係(その3)



廣江です。表題の件についての調査結果のまとめです。


1. 「出入国管理及び難民認定法」によれば、在留資格を持っていないと
 日本に入国できない。在留資格は27種類あり、「出入国管理及び難民
 認定法」の中で規定されている。

 →だから、在留資格を追加したり再編したりするためには、「出入国
 管理及び難民認定法」の改正が必要だろう。


2. 同法によれば、資格外の就労をすることは禁止されている(不法就労
 になる)。また、不法就労者を雇用することも禁止されている。

 →後者の「不法労働者の雇用の禁止」を法文から削除するだけでも、
 「雇用を認め」たことにはなりそうだが……。


3. 現在の在留資格の中には、「定住者」と呼ばれるものがある。この
 資格には就労制限がないので、「定住者」がどんな職種で働くことも、
 「定住者」をどんな職種で雇用することも、合法である。

 →ということは、申請してきた外国人に「定住者」の在留資格を与え
 れば、「すべての職種で……移住労働者の雇用を認め」たことになる。
 新たな在留資格を設けるわけではないので、「出入国管理及び難民認
 定法」の改正は不要そうだ。


4. 現在、「定住者」の在留資格は、主に日系人と難民(と認定された
 人)に対して与えられている。これは、法務省の告示である「出入国
 管理及び難民認定法第七条第一項第二号の規定に基づき同法別表第二
 の定住者の項の下欄に掲げる地位を定める件」に従って包括的に行な
 われている。

 →ということは、在留資格を与える対象者を変更したかったら、新た
 な告示を出せばいいわけだ。しかし、新たな告示を出すことが「出入
国管理関係法令を改正」したことになるのか、または“amending the
immigration laws”に該当するのかは、微妙なところ。


5. 日系人や難民認定者以外でも、申請したら「定住者」の資格が与え
 られることがある。こちらは個別対応であり、そのつど法務省の通達
 によって行なわれる。

 →ここから類推すると、一度限りのアムネスティーだったら、同様に
 法務省の通達だけで実現できそうだ。これは「出入国管理関係法令を
 改正」には該当しないだろう。



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

JDA秋大会でのジャッジ(2) [ディベート]

(以下では、AD は advantage(利益)を、DA は disadvantage(不利益)を表わします。こう略すのが自分としては慣れているので。)


すっかり間が開きましたが、JDA大会の話の続きです。


前回、「判断基準」について「異文化」を感じることが頻繁にあったと書きましたが、その例についてです。


いくつかの試合で、「判断基準」と称して以下のような主張が出てきており、しかも最後の反駁までそれを伸ばし続けていたのですが、これらは勝敗にどう結びつけてよいのか、結構悩みました。


  • 「日本人が海外(特に発展途上国)で代理母に依頼するのを放任しているのは、許されない」
  • 「代理母の容認は他の政策と一貫してないから行なうべきでない」
  • 「危険を与える可能性があるから代理母は認められない」


他にも出ていたような気がしますが、共通しているのは、いきなり「~行なうべきでない」「~許されない」という主張をしているという点です。


つまり、通常の試合では、AD と DA とを比較し、AD の方が大きければ「すべきである」、逆なら「すべきでない」と判定するわけですが、上記の主張は、そのプロセスを省略しているように見えるのです。


では、これらの「判断基準」を出したディベーターがAD と DA とを比較を放棄しているのかというと、そうでもなくて、最後の反駁でどちらの話もしていたりします。(例えば、否定側第二反駁において、ケースの側では AD とターンアラウンドとを比較しているのに、DA の側では「判断基準」を伸ばして「この政策は認められない」と主張している、など)


このような「判断基準」をディベーターが最終反駁まで残した場合、どうやって勝敗に反映させればよいのか結構悩みます。反映のさせ方は以下のようにいろいろ考えられるのですが、いずれにしても説明不足に思えるからです。


  1. あくまでも、「AD と DA との比較」に落とし込む。例えば、「他の政策と一貫してないから採るべきでない」という主張は、「一貫性を乱すのは悪いことだ」という DA だと考える。
    → そうならそういう説明が必要。
  2. 「AD と DA との比較」という考え方を否定し、新しいディベートパラダイムを出していると考える。例えば、「他の政策と一貫してないから採るべきでない」という「判断基準」は、他の政策との一貫性のみで「すべき」か否かを判定するというパラダイムを出しているのだと考える。
    → そうだとしたら、「AD と DA との比較」を放棄した上で、この試合でジャッジが一貫性のみ判定しなければならない理由が必要。(いわゆる「パラダイムシフト」)
  3. 「すべき」か否かを判定するために、単純な「AD と DA との比較」の他に、一貫性や国家の役割なども考慮する新しいパラダイムを出していると考える。
    → この場合、「AD と DA との比較」を否定する必要はないが、この試合でジャッジがそのパラダイムを考慮しなければならない理由が必要。
  4. パラダイムを一つに絞っているわけではなく、上記の 1 と 2 のどちらに転んでも肯定側/否定側の勝ちという主張だと考える。
    → この場合、ジャッジが混乱しないための説明が必要。例えば否定側なら、「肯定側のプランは他の政策との一貫性に反している時点で、AD や DA とは無関係に否定側の勝ちが確定。もしジャッジがこの考えを受け入れられなくても、AD と DA の比較でも否定側が勝っている」と主張する。(もちろん、なぜ一貫性のみで判定しなければならないかの理由も必要。)


結局、「AD と DA との比較」を最終反駁まで伸ばしている以上は 2 は無理がありますし、1 のように AD や DA に落とし込みようにも説明不足ですし、新しいパラダイムと考えようにもそんな話は出てきていません。というわけで、「判断基準」は無視し、それ以外の議論で勝敗を決める……という、ディベーターにとっては不本意な判定をせざるを得ませんでした。


ジャッジやコーチによっては、このような「判断基準」(直接「~すべきでない」とか「~許されない」と主張するもの)を出すことを推奨している人もいると聞きます。このような「判断基準」をどのように勝敗に反映させているのか、教えていただけると幸いです。(批判しているわけではなくて、純粋に質問です。)



ちなみに、上記の 1~3 については、過去(といっても 1990年代なのですが)に実例があります。次回にでも紹介します。



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

JDA秋大会でのジャッジ [ディベート]

2010年11月3日(文化の日)に JDAの秋大会があり、ジャッジに行ってきました。すでに2週間以上経ってしまいましたが、気がついた点をコメントします。


5年前にほぼ同じ論題だったときは、着床前診断のケースが8~9割で、代理出産のケースは数えるほどでした。それに対して今回は全く逆で、代理出産のケースがほとんどだったみたいです。私が予選3試合で見たケースも、決勝のケースも、いずれも代理出産でした。代理出産および着床前診断を取り巻く状況は、5年間であまり変化していない(ように見える)にも関わらず、ケースの流行が正反対になっているのは、なかなか興味深い現象です。


ところで、私は、この大会の特徴は「異文化交流」にあると勝手に思っています。どういうことかというと――


今の日本には、さまざまなディベート活動があります。日本語・英語、中高生・大学生・社会人、政策ディベート・パーラメンタリーディベート、などなど。普段は、それぞれがコミュニティーを構成していて、交流することはあまりないのですが、JDA大会はいろんなコミュニティーからの参加があるため、異なるコミュニティーから来た人同士の対戦を見ることができます。これを私は「異文化交流」(「異文化対決」かもしれませんが)と勝手に呼んでします。さらに「異文化交流」は、対戦相手に限らず、ディベーターとジャッジとの間でも発生します。


JDA 大会のこのような特徴に気づいてからは、試合後にコメントするときも、できる限り特定のコミュニティーに偏らないように心がけています。


……という長~い前置きは何のためかというと、ここ数年、この大会でジャッジをしていて、とある議論の扱いについて「異文化」を感じることが頻繁におこったからです。その議論とは、カウンタープランでもトピカリティーでもなくて、意外にも「判断基準」についてです。


――その具体例については、次回に説明します。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

ディベートタイマーを公開しました [ディベート]


screen_shot.png
ディベートの試合の時間計測に便利なタイマーを公開しました。 詳しくはこちらを参照してください。

(リンク先からの引用)

これは何ですか?

以下の5種類の時間をそれぞれ別個に計ることができるタイマーです。
  • 立論
  • 反駁
  • 質疑
  • 肯定側準備時間
  • 否定側準備時間
プログラムは JavaScript で記述されており、ブラウザ上で動作します。

“Practicality”と“Workability”――その3 [ディベート]

引き続き、『Practicality と Workability』の再掲です。以下で出てくる「今回の」論題というのは、JDAの2005年後期論題のことです。
----------------------------------------------------------------
● カウンタープランの practicality と workability

肯定側は自分のプランの practicality と workability とを証明する必要
がある――というのは、前回書いたとおりです。では、否定側のカウンター
プランについてはどうでしょうか?

基本的には、肯定側のプランと同様に、practicality と workability とを
証明する必要があります。例えば、「一切の体外受精を禁止する」という
カウンタープランを出すのなら、「体外受精が全く行なわれない状態が本当
に実現する」といったことを証明する必要があります。(簡単のため、ここ
では「医師に直接フィアットを適用して云々」という話は考えないことにし
ます。)


しかし、その一方で、「お互い様」という考えもあり得ます。つまり、肯定
側がプランの practicality をほとんど示さなくて良いのなら、カウンター
プランの practicality の証明も同じ程度でいいではないか――という発想
です。

以下の引用は『現代ディベート通論・復刻版』からです。この説明はカウンター
プランの非命題性についてのものであり、practicality についてではない(*1)
のですが、ここに出てくる「Aff を命題的とする同じ基準で Neg の非命題性を
見なければならない」という考え方は practicality の証明にも当てはまると
思います。


『現代ディベート通論・復刻版』p139
-----
 Neg の非命題性の決定は Aff の命題性の決定と同様に行われる。両方共、
管轄の問題として領域が反対にあるだけで変わることはないのだから。つま
り二重の基準の禁止ということである。Aff を命題的とする同じ基準でNeg
の非命題性を見なければならない。この理由は明白である、というよりも
二重の基準を使う理由が存在しないといえる。

 具体的には、Neg は Aff が妥当に命題的でいいのなら妥当に非命題的で
いいし、Aff が結果命題的はよくないというのなら、Neg もカウンタープラン
の非命題性の防衛において、“non-topical as it is only topical by effect”
とも言える。またもっと特定に Aff の出した命題性基準や更には、定義を転用
するのもかまわない。
-----


言い換えると、肯定側が自分のプランの practicality をしっかりと証明
しておけば、否定側のカウンタープランに対しても同程度の証明を要求する
ことができます。「肯定側は practicality についてここまで証明したのだ
から、カウンタープランの practicality も同じ程度の証明が必要だ」といっ
た感じで。つまり、カウンタープランの乱発に対する牽制になりえます(*2)。



注
-----
(*1) そもそも『通論』には、practicality という用語は全く出てきません。
どうも、「有効性」(effectiveness)という用語を代わりに使っているよう
です(例えば「5.2.3 効果的運用のための手段 (aids to effectiveness)』」
あたり)。
一方で、workability は出てきます(例えば「7.2.2 解決性に対する攻撃――
(1) 実行可能性 (workability)」のあたり)。もっとも、「実行可能性」と
いう訳が充ててあることから分かるように、『通論』での“workability”は
私の文章での practicality をある程度含んでいるようです。


(*2) とはいうものの、私はかつて、そうやってカウンタープランの practicality
がないことを指摘したにもかかわらず負けてしまったことがあるのですが……。
試合後にバロットを見たら、「カウンタープランはフィアットにより実現される」
と書いてありました。
-----


----------------------------------------------------------------
● スピーチ内での一貫性が重要

相手チームが出したプラン(またはカウンタープラン)に対して、practicality
を否定する(または practicality がないことを指摘する)場合、下手をすると
自分が出したイシューを自分で否定してしまうことがあります。特に否定側が
それをやってしまうことがよくあります。

以下では、その実例と回避方法について説明します。


1. Practicality とカウンタープラン

否定側が、肯定側のプランに対して「practicality を証明していない」と指摘
したとします。もし、それと同時に、practicality のないカウンタープランも
出してしまったらどうなるでしょうか?

実はこれは、否定側にとって危険な状態です。というのも、賢明な肯定側なら
これを逆手にとって以下のように主張することができてしまうからです。

  肯定側の主張:
  否定側は「肯定側は practicality を証明していない」と指摘しましたが、
  一方でカウンタープランの practicality も証明していません。だったら
  「お互い様」ということで practicality は考えないことにしましょう。
  だから、肯定側プランもカウンタープランも、内容が実現したと仮定して
  議論しましょう。」

もし否定側にとって、practicality への攻撃が「本命」でカウンタープランは
「捨て」のつもりだった場合、上記のように肯定側に開き直られてしまうのは痛い
と思います。(本命が逆なら「まさに願ったり」かもしれませんが。)

そうなるのを防ぐには、もちろん、カウンタープランを出すときに practicality
も証明することです。Practicality の証明方法について肯定側に範を示す
くらいのつもりでいると良いのではないでしょうか。そうすることで、「肯定
側は practicality を証明していない」という指摘も説得力が増します。



2. Practicality と DA

今度は、practicality と DA との整合性についてです。
肯定側はプランの practicality を一応証明してあるとします。それに対し
て否定側が、practicality を否定する議論を出すとします。その際、以下の
2点に十分注意する必要があります。

 (a) Practicality がなくなると、本当に AD は全滅するか。わずかに残っ
  たりしないか。
 (b) 自分の出した DA についてはどうか。

(b) は忘れやすいので注意が必要です。このチェックを忘れると、AD と DA
との組み合わせによっては、practicality への攻撃によって DA は全滅した
一方で AD はわずかに残ってしまい、結果として否定側は自分の議論のせい
で負けてしまうことがあり得てしまうからです。

こうなるのを防ぐため、practicality への攻撃をするときは「practicality が
なくても発生し得る DA」も出した方が良いのです。今回の論題なら、「仮に代理
出産や着床前診断がまったく実施されなくても発生し得る DA」ということで、
例えば「法令が制定されてその内容が報道されると、人々の心理にダイレクト
に影響して……」みたいな分析だったらそれに該当しましょう。


似た例をもう一つ。意外かもしれませんが、以下の2つの議論を同時に出すのも
ご法度です。

 (1) 「プランの後でも、代理出産や着床前診断の実施件数は少ない」という
  ケースアタック。
 (2) 代理出産や着床前診断の実施件数に依存した DA。例えば、「着床前診断
  の際、胚が傷つく可能性があって……」という点から発生する DA。

もし、全ての AD が代理出産や着床前診断の実施自体に由来している場合、(1)
によって確かに AD は減ります。しかしそれと同時に DA も減ってしまいます。
つまり、いくらケースアタックをして AD を減らしても、DA を下回ってくれま
せん。「実施件数は少ない」ではなくて「実施件数はゼロ」ということを示せれ
ば否定側は勝てますが、それなら DA を出す意味がありません。


3. (おまけ)命題外性と DA

DA と他のイシューとの整合性の話が出たついでに、practacality とは無関係
ですが、DA と命題外性(extra-topicality)との整合性についても書いておき
ます。

命題外性とは、簡単に言うと「Nontopical な条項に由来する AD は無視しま
しょう」という主張です。これについても、以下の2点に十分注意する必要が
あります。

 (a) 命題外性を主張することで、本当に AD は全滅するか。わずかに残っ
  たりしないか。
 (b) 自分の出した DA についてはどうか。

(b) のチェックを忘れると、場合によっては、命題外性の主張によって DA は
全滅したが AD はわずかに残ってしまい……という皮肉な結果になってしまう
こともあります。



こういった、イシュー間の整合性というのは、ディベーターは気づかないのに
ジャッジは気づいてしまうという状況が発生しがちで、こういうときにジャッジ
はどう判定すべきかは、結構奥の深いテーマです。


----------------------------------------------------------------
● 「制度を作る」というワーディングと practicality

この項目は、自説に大きく偏っていることを予め断っておきます。


論題のワーディングには、「~すべきである」と直接述べる代わりに
「~するための制度を作る/採用すべきである」というクッションを置いた
ような表現になっているものがあります。「法令を制定すべきである」もそう
ですし、今回の「法的枠組みを整備すべきである」もそのような例です。

実はこの「制度を作る」という表現は曲者で、これに由来するややこしい議論
がいろいろと発生する可能性があるのです。「プラン採択後に制度が作られる」
という点についてフィアットで仮定できるのか、それとも practicality として
証明が必要なのか、とか、「制度を作ると金と時間がかかる」という DA は認め
られるべきか、それとも should-would 議論なのか、とかいろいろあります。

しかし、このような「制度型」(勝手に命名)のワーディングを持つ論題は、
「忘れた頃に現れる」傾向があるため、なかなかノウハウが蓄積しないきらい
があります。つまり、一度出現すると次回に現れるのはディベーターの面々が
すっかり入れ替わった頃であり、誰も前回の議論を覚えていない……という現象
が発生しがちです。


そこで、自分の web ページで、「制度型」の論題にユニークな議論をまとめて
みました。興味がある人は読んでみて下さい。
-----
C. Resolution の分類その2――「~する」と「~するための制度を作る」 
http://www002.upp.so-net.ne.jp/ahiroe/debate/common_c.html
-----


なお、過去の「制度型」の論題において、この手のややこしい議論が最もよく
出ていたのは以下のときです(ただし 1990年以降)。今回の論題と比べると、
通年ということもあってトピックははるかに広いのですが、医療と法律という
点で共通点があります。
-----
1991年秋~1992年春
Resolved: That the Japanese government should establish one or more new
laws that govern biomedical research and/or its applications to medical
practice

(訳例)日本政府は、新しい法律を制定することにより、生物医学的研究や
それを実際の医療に応用することなどをコントロール(govern)すべきである。
-----


このとき、否定側は法律以外の手段を用いたカウンタープランを非常に良く
出していました。例を挙げると、行政指導・政令・違憲立法審査・解釈変更・
次官通達などです。そしてカウンタープランの競合性と優位性とを示すため、
法律制定に由来する DA を出すことが多かったのですが、そこでややこしい議論
がいろいろ発生していました。そのときの様子を以下のページに書き残しておき
ました。参考までに。

-----
3. 百花繚乱のカウンタープラン
http://www002.upp.so-net.ne.jp/ahiroe/debate/1991f-1992s.html#5_3
5. カウンタープランを成立させるための「小さな DA」
http://www002.upp.so-net.ne.jp/ahiroe/debate/1991f-1992s.html#5_5
-----




----------------------------------------------------------------

Practicality と workability との説明は、これで終わりです。
今回書いた中で特に強調したいのは「一貫性」です。つまり、自分の出した
複数のイシューの間で主張が一貫していないと、単に時間を損するだけでな
く、自分で自分の首を絞めてしまう場合さえもあり得るということです。
こういったことは試合中に考えているようでは手遅れで、イシューを作る段階
で十分考えておく必要があります。
----------------------------------------------------------------
今回はここまでです。以上で、『Practicality と workability』の再掲は終わりです。


“Practicality”と“Workability”――その2 [ディベート]

引き続き、『Practicality と Workability』の再掲です。
以下で出てくる「今回の」論題というのは、JDAの2005年後期論題のことです。そのため、「~必要な法的枠組みを整備すべきである」という部分は、今回(2010年後期)とは食い違っています。
----------------------------------------------------------------
● 今回の論題での practicality とは?

では、今回の「日本政府は、代理出産または着床前診断を実施するために必要
な法的枠組みを整備すべきである」という論題において、practicality と
workability とは何を証明することでしょうか?

実は、「法的枠組みを整備すべきである」というワーディングのせいで、
practicality の範囲が少しややこしくなっています(後述)。また、当然
ながらプランの内容によっても変わってきます。

それでも、典型的なケースにおいては、以下のことを証明する必要があると思っ
ていれば間違いないでしょう。

 Practicality:
   プランの後で、代理出産または着床前診断が本当に実施される。
   (医師たちが本当に実施する、など。)
 Workability:
   代理出産または着床前診断が実施されたら、AD が得られる。
   (問題が解決する、など。)


JDA 大会の予選で見かけた 3つのケースでは、いずれも practicality は証明
されていませんでした。



----------------------------------------------------------------
● Practicality とフィアットとの関係

ここまで読んだ人の中には、「Practicality ってフィアットで仮定できな
いの?」と思う人がいるかもしれませ。でも、両者は別物です。

フィアットについての詳細は『ディベート通論』あたりを参照してもらうこと
にしまして(宣伝!)、ここでは簡潔に説明します。

フィアットとは、簡単に言えば「プランが採用されたと仮定する」ことです。
でも、採用されたからといってプランの内容が自動的に実現されるわけではな
いのは、上の『猫に鈴』で分かるとおりです。ネズミたちが「猫の首に鈴をつけ
る」というプランを採用したからといって、猫の首に鈴が自動的についてくれる
わけでは決してありません。

同様に、日本政府がプランを採択したからといって、医師たちが自動的に代理
出産や着床前診断といった医療行為を実施してくれるわけではありません。別途
証明する必要があります。



----------------------------------------------------------------
● Practicality はどうやって証明する?

Practicality は、いつ、どのように証明したらよいでしょうか?

「否定側に指摘されるまでは知らんぷりを決め込む」というのも、一つの作戦
かもしれません。でも、指摘された場合、第2立論で practicality を証明する
時間的余裕はあるでしょうか?  ほとんどないと思います。
また、ジャッジによっては practicality を厳しく要求する人もいて、たとえ
否定側からの指摘が無くても「Practicality を証明していないので AD なしと
見なす」という判定をする可能性だってあります。というわけで、Practicality
の証明は始めからケースに入れ込んでおくことを強くお奨めします。


では、今回の論題での practicality、すなわち「プランの後で、代理出産
または着床前診断が本当に実施される」ということを証明するには、一体どう
したらよいでしょうか?

そのものズバリを述べている文献が見つかればいいのですが、そんな便利な
ものはそうそう見つかるものではありません。そういう場合、間接的な証明を
いかに組み合わせるかが、腕の見せ所です。

例えば、こんな証明の仕方を考えました。(即行で考えたので、あまり練れて
いませんが……。)

(1) 産婦人科学会は、日本政府の意向に従う。
  ← 過去の事例などを用いて証明する。
 証明した後で、「だからプランの後では、産婦人科学会は自主規制を撤回
 するはずだ」と主張する。

(2) 自主規制がなくなると、医師たちは代理出産または着床前診断を実施する。
  ← 「自主規制さえなければ……」という医師の声を引用する。

(3) 不妊症の患者の中には、代理出産または着床前診断を希望する人がいる。
  ← この手のカードはケースに既に入っているはずなので、それを流用。


なお、practicality は、プランの手段を具体的に記述するほど証明しやすくなる
傾向があります。例えば、「法律を制定し、違反時の罰則もその法律で規定して
おく」とプランに書いておけば、法的罰則の効力について一般的に説明してある
カード(百科事典など)が practicality の証明に使え(ることもあり)ます。
ただし、この場合も、証明自体は必要です。決して、プランに書いておけばいい
だけの話ではありません。



さらに、確実さを考えると、practicality や workability が万が一 否定され
ても残るような AD をケースに入れておくことも重要です。例えば、代理出産
または着床前診断が実施されなくても得られる AD や、実施さえされれば成功
しなくても得られる AD などです。

これでは「???」かもしれませんが、以下の流れ図で書けば分かりやすいと
思います。


a) プランを採択する ⇒ プラン採択自体から得られる AD
   ↓
   ↓ Practicality
   ↓
b) 代理出産または着床前診断が実施される ⇒ 実施自体から得られる AD
   ↓
   ↓ Workability
   ↓
c) 問題が解決する ⇒ 問題解決から得られる AD(普通の AD)


こうやって AD の出所を複数にしておくと、つぶれにくいケースが出来上がり
ます。さらに、a)→b) や b)→c) のリンクを複数用意すると、強いケースに
なります。もっとも、あまり複雑怪奇にするとジャッジに伝わらなくなる可能性
があるので、ほどほどに。(経験者談)

強いケース作りのコツは、「ここを否定されたら AD は全滅」というボトル
ネックをなくすことであり、practicality がなくても残る AD を入れて
おくのはそれに適っています。

一方で、AD のすべてが practicality に依存していながら practicality を
証明していないケースというのは、言ってみれば敵にボトルネックを教えてし
まっているようなもので、とても危なっかしいことをしています。
----------------------------------------------------------------
今回はここまでです。


“Practicality”と“Workability”――その1 [ディベート]

今期の JDA推奨論題は代理出産および着床前診断であり、2005年の後期と(ほぼ)同じです。 そこで、かつてとあるメーリングリストに投稿した記事のうちで関係ありそうなものを、ここに再掲載しようと思います。
第1弾は、『Practicality と Workability』です。長いので、いくつかに分割します。なお、以下の「予選3試合」は2005年JDA秋大会を表わしています。また、リンク先のチェック等は行なっていないので、その点はご了承ください。
----------------------------------------------------------------
予選 3試合をジャッジした内、2つのケースは着床前診断、残りの1つは代理
出産でした。でも、3つのケースを見て、共通して気になった点がありました。
それは、「プラン採択後は、着床前診断や代理母出産が実際に行なわれる」と
いう証明をしていたケースが皆無だったことです。一方、対する否定側のうち、
その点をしっかりと指摘していたのは 1チームだけでした。指摘すれば楽に
勝てるのに……。

「プラン採択後は、着床前診断や代理母出産が実際に行なわれる」という証明
は一般的には practicality(実現可能性?)と呼ばれますが、予選で見た
6チームのうち 5チームは、どうもこれを重視していなかったようです。
(もちろん、たった 3試合から一般化するつもりはありませんが。)


そこで、practicality と、それと対になる概念である workability とについ
て、簡単に解説してみたいと思います。

これを読んだら、practicality を証明していないケースは怖くて出せなくなる
と思います。また、否定側のときにそんなケースに出会ったら、楽に勝てるはず
です。


なるべく自説に偏らないように説明してあるつもりですが、おかしな点や不明瞭
な点があったら指摘していただけると辛いです。

また、私は practicality と workability の定訳を知らないため、これらを
英単語のまま記述しています。そのため、読みにくい点があることを予めご了承
ください。



----------------------------------------------------------------
● Practicality と workability とは?

Practicality と workability とは一体何でしょうか?  実は、参考にする資料
によって、両者の指す範囲が異なっています。(同一視している資料さえも
あります。)

ちなみに、“practicality workability "academic debate"”というキーワード
を Google に入れてみると、検索結果は以下の通りです。
http://www.google.com/search?num=50&hl=ja&q=practicality+workability+%22academic+debate%22&lr=


ここでは、以下のように使い分けることにします。

 Practicality:
   プランに書いてあることが本当に実現するか?

 Workability:
   プランに書いてあることが実現したとして、本当に AD が得られるか?
   (例えば、問題が解決するなど。)


両者を簡潔に説明してあるものとして、私がかつて受講したセミナーのレジメ
を引用します。
(ウルトラマンの例って、最初に思いついたのは誰なんでしょうか? > ご存知の方)


1990年 NAFA夏セミナー
AFFIRMATIVE CASE(講師:佐藤好一郎氏)のレジメより:
------------------------------
  Solvency の証明は以下の二つの要素を示すことによってなされる。
 * Practicality
  Plan の遂行が可能かどうか?

 * Workability
  Plan の遂行によって実際に問題が解決できるのか?

  この二つがどのように違うのか良く持ち出される例だがウルトラマンを使っ
て説明してみよう。

(例・5)
   東京に謎の宇宙人が攻めてきた。僕らの地球が危ない。この大事件を君
  ならどう解決する? A君と B子は次のような Plan をそれぞれ考えた。

  A君・・・ウルトラマンを呼んで助けてもらう。
  B子・・・アントニオ猪木を呼んで助けてもらう。

   が、しかしウルトラマンはテレビ番組の中の存在で実際にはいないので
  (と私は思っている。)呼ぶのは不可能だろう。これが Practicality の
  問題である。また、アントニオ猪木は呼ぶことはできてもわざわざ地球を
  侵略しにきた宇宙人の軍団に勝てるわけがない。詰まり Practicality が
  あっても Workability がないといえる。
------------------------------


以下の説明では、practicality と workability との区分を、上記のレジメと
同様にしてあります。ただ、正直言うと、上記のレジメの区分が一般的なもの
なのか、それともローカルなものに過ぎないのか、私は知りません。なので、
ご存知の方がいましたら、教えていただけると幸いです。



----------------------------------------------------------------
● Practicality の無い例――イソップ物語より

Workability はあっても practicality が無い例として私が良く挙げるのは、
現代イソップ物語の「猫に鈴」という話です。以下に引用します。

http://www.diarix.jp/aesop/sub/story02.html  より:
------------------------------
猫に鈴 

 昔々、世界中のねずみが集まって猫の攻撃から身を守る最善の方法を巡って
会議を行いました。いくつかの提案に議論が戦わされたあと、地位と経験のある
ねずみが立ち上がりました。

「君たちが賛同して実現してくれれば、今後必ずや我々を守ってくれる妙案を
思いついた。我々の敵である猫の首に鈴をつけるんだ。奴らが近づけばその鈴
の音で危険がわかるという寸法だ」

 この提案はみんなから大いに賛同され、採用が決定されました。その時古参
のねずみが立ち上がって言いました。

「わしは君の意見に賛成だし、この提案はとてもすばらしいと思う。しかし
ちょっと訊くが誰が猫の首に鈴を付けるんだ」
------------------------------

この物語からプラン・practicality・workability を取り出すと、以下の通り
です。

プラン:
  ネズミの誰かが猫の首に鈴をつける。
Practicality:
  猫の首に鈴がついた状態が本当に実現する。
Workability:
  猫の首に鈴がついていれば、猫が近づくのが音で分かるから、ネズミたちは
  猫から逃げることができる。

このプランは、workability はあるけれど、practicality が無いというわけ
です。(「プランの主体が不明瞭」という捉え方もできますが。)

ディベートにおいて、ケースを作るときに、これと同じことをやらかしてい
ないでしょうか?  つまり、解決性等の「プランを採ると状況はどう変わるか」
という話を、プランの内容が実現してしまったところから始めていないでしょ
うか?(← 私はやらかしました。)
----------------------------------------------------------------
今回はここまでです。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感
- | 次の10件 ディベート ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。