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“Practicality”と“Workability”――その3 [ディベート]

引き続き、『Practicality と Workability』の再掲です。以下で出てくる「今回の」論題というのは、JDAの2005年後期論題のことです。
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● カウンタープランの practicality と workability

肯定側は自分のプランの practicality と workability とを証明する必要
がある――というのは、前回書いたとおりです。では、否定側のカウンター
プランについてはどうでしょうか?

基本的には、肯定側のプランと同様に、practicality と workability とを
証明する必要があります。例えば、「一切の体外受精を禁止する」という
カウンタープランを出すのなら、「体外受精が全く行なわれない状態が本当
に実現する」といったことを証明する必要があります。(簡単のため、ここ
では「医師に直接フィアットを適用して云々」という話は考えないことにし
ます。)


しかし、その一方で、「お互い様」という考えもあり得ます。つまり、肯定
側がプランの practicality をほとんど示さなくて良いのなら、カウンター
プランの practicality の証明も同じ程度でいいではないか――という発想
です。

以下の引用は『現代ディベート通論・復刻版』からです。この説明はカウンター
プランの非命題性についてのものであり、practicality についてではない(*1)
のですが、ここに出てくる「Aff を命題的とする同じ基準で Neg の非命題性を
見なければならない」という考え方は practicality の証明にも当てはまると
思います。


『現代ディベート通論・復刻版』p139
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 Neg の非命題性の決定は Aff の命題性の決定と同様に行われる。両方共、
管轄の問題として領域が反対にあるだけで変わることはないのだから。つま
り二重の基準の禁止ということである。Aff を命題的とする同じ基準でNeg
の非命題性を見なければならない。この理由は明白である、というよりも
二重の基準を使う理由が存在しないといえる。

 具体的には、Neg は Aff が妥当に命題的でいいのなら妥当に非命題的で
いいし、Aff が結果命題的はよくないというのなら、Neg もカウンタープラン
の非命題性の防衛において、“non-topical as it is only topical by effect”
とも言える。またもっと特定に Aff の出した命題性基準や更には、定義を転用
するのもかまわない。
-----


言い換えると、肯定側が自分のプランの practicality をしっかりと証明
しておけば、否定側のカウンタープランに対しても同程度の証明を要求する
ことができます。「肯定側は practicality についてここまで証明したのだ
から、カウンタープランの practicality も同じ程度の証明が必要だ」といっ
た感じで。つまり、カウンタープランの乱発に対する牽制になりえます(*2)。



注
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(*1) そもそも『通論』には、practicality という用語は全く出てきません。
どうも、「有効性」(effectiveness)という用語を代わりに使っているよう
です(例えば「5.2.3 効果的運用のための手段 (aids to effectiveness)』」
あたり)。
一方で、workability は出てきます(例えば「7.2.2 解決性に対する攻撃――
(1) 実行可能性 (workability)」のあたり)。もっとも、「実行可能性」と
いう訳が充ててあることから分かるように、『通論』での“workability”は
私の文章での practicality をある程度含んでいるようです。


(*2) とはいうものの、私はかつて、そうやってカウンタープランの practicality
がないことを指摘したにもかかわらず負けてしまったことがあるのですが……。
試合後にバロットを見たら、「カウンタープランはフィアットにより実現される」
と書いてありました。
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● スピーチ内での一貫性が重要

相手チームが出したプラン(またはカウンタープラン)に対して、practicality
を否定する(または practicality がないことを指摘する)場合、下手をすると
自分が出したイシューを自分で否定してしまうことがあります。特に否定側が
それをやってしまうことがよくあります。

以下では、その実例と回避方法について説明します。


1. Practicality とカウンタープラン

否定側が、肯定側のプランに対して「practicality を証明していない」と指摘
したとします。もし、それと同時に、practicality のないカウンタープランも
出してしまったらどうなるでしょうか?

実はこれは、否定側にとって危険な状態です。というのも、賢明な肯定側なら
これを逆手にとって以下のように主張することができてしまうからです。

  肯定側の主張:
  否定側は「肯定側は practicality を証明していない」と指摘しましたが、
  一方でカウンタープランの practicality も証明していません。だったら
  「お互い様」ということで practicality は考えないことにしましょう。
  だから、肯定側プランもカウンタープランも、内容が実現したと仮定して
  議論しましょう。」

もし否定側にとって、practicality への攻撃が「本命」でカウンタープランは
「捨て」のつもりだった場合、上記のように肯定側に開き直られてしまうのは痛い
と思います。(本命が逆なら「まさに願ったり」かもしれませんが。)

そうなるのを防ぐには、もちろん、カウンタープランを出すときに practicality
も証明することです。Practicality の証明方法について肯定側に範を示す
くらいのつもりでいると良いのではないでしょうか。そうすることで、「肯定
側は practicality を証明していない」という指摘も説得力が増します。



2. Practicality と DA

今度は、practicality と DA との整合性についてです。
肯定側はプランの practicality を一応証明してあるとします。それに対し
て否定側が、practicality を否定する議論を出すとします。その際、以下の
2点に十分注意する必要があります。

 (a) Practicality がなくなると、本当に AD は全滅するか。わずかに残っ
  たりしないか。
 (b) 自分の出した DA についてはどうか。

(b) は忘れやすいので注意が必要です。このチェックを忘れると、AD と DA
との組み合わせによっては、practicality への攻撃によって DA は全滅した
一方で AD はわずかに残ってしまい、結果として否定側は自分の議論のせい
で負けてしまうことがあり得てしまうからです。

こうなるのを防ぐため、practicality への攻撃をするときは「practicality が
なくても発生し得る DA」も出した方が良いのです。今回の論題なら、「仮に代理
出産や着床前診断がまったく実施されなくても発生し得る DA」ということで、
例えば「法令が制定されてその内容が報道されると、人々の心理にダイレクト
に影響して……」みたいな分析だったらそれに該当しましょう。


似た例をもう一つ。意外かもしれませんが、以下の2つの議論を同時に出すのも
ご法度です。

 (1) 「プランの後でも、代理出産や着床前診断の実施件数は少ない」という
  ケースアタック。
 (2) 代理出産や着床前診断の実施件数に依存した DA。例えば、「着床前診断
  の際、胚が傷つく可能性があって……」という点から発生する DA。

もし、全ての AD が代理出産や着床前診断の実施自体に由来している場合、(1)
によって確かに AD は減ります。しかしそれと同時に DA も減ってしまいます。
つまり、いくらケースアタックをして AD を減らしても、DA を下回ってくれま
せん。「実施件数は少ない」ではなくて「実施件数はゼロ」ということを示せれ
ば否定側は勝てますが、それなら DA を出す意味がありません。


3. (おまけ)命題外性と DA

DA と他のイシューとの整合性の話が出たついでに、practacality とは無関係
ですが、DA と命題外性(extra-topicality)との整合性についても書いておき
ます。

命題外性とは、簡単に言うと「Nontopical な条項に由来する AD は無視しま
しょう」という主張です。これについても、以下の2点に十分注意する必要が
あります。

 (a) 命題外性を主張することで、本当に AD は全滅するか。わずかに残っ
  たりしないか。
 (b) 自分の出した DA についてはどうか。

(b) のチェックを忘れると、場合によっては、命題外性の主張によって DA は
全滅したが AD はわずかに残ってしまい……という皮肉な結果になってしまう
こともあります。



こういった、イシュー間の整合性というのは、ディベーターは気づかないのに
ジャッジは気づいてしまうという状況が発生しがちで、こういうときにジャッジ
はどう判定すべきかは、結構奥の深いテーマです。


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● 「制度を作る」というワーディングと practicality

この項目は、自説に大きく偏っていることを予め断っておきます。


論題のワーディングには、「~すべきである」と直接述べる代わりに
「~するための制度を作る/採用すべきである」というクッションを置いた
ような表現になっているものがあります。「法令を制定すべきである」もそう
ですし、今回の「法的枠組みを整備すべきである」もそのような例です。

実はこの「制度を作る」という表現は曲者で、これに由来するややこしい議論
がいろいろと発生する可能性があるのです。「プラン採択後に制度が作られる」
という点についてフィアットで仮定できるのか、それとも practicality として
証明が必要なのか、とか、「制度を作ると金と時間がかかる」という DA は認め
られるべきか、それとも should-would 議論なのか、とかいろいろあります。

しかし、このような「制度型」(勝手に命名)のワーディングを持つ論題は、
「忘れた頃に現れる」傾向があるため、なかなかノウハウが蓄積しないきらい
があります。つまり、一度出現すると次回に現れるのはディベーターの面々が
すっかり入れ替わった頃であり、誰も前回の議論を覚えていない……という現象
が発生しがちです。


そこで、自分の web ページで、「制度型」の論題にユニークな議論をまとめて
みました。興味がある人は読んでみて下さい。
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C. Resolution の分類その2――「~する」と「~するための制度を作る」 
http://www002.upp.so-net.ne.jp/ahiroe/debate/common_c.html
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なお、過去の「制度型」の論題において、この手のややこしい議論が最もよく
出ていたのは以下のときです(ただし 1990年以降)。今回の論題と比べると、
通年ということもあってトピックははるかに広いのですが、医療と法律という
点で共通点があります。
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1991年秋~1992年春
Resolved: That the Japanese government should establish one or more new
laws that govern biomedical research and/or its applications to medical
practice

(訳例)日本政府は、新しい法律を制定することにより、生物医学的研究や
それを実際の医療に応用することなどをコントロール(govern)すべきである。
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このとき、否定側は法律以外の手段を用いたカウンタープランを非常に良く
出していました。例を挙げると、行政指導・政令・違憲立法審査・解釈変更・
次官通達などです。そしてカウンタープランの競合性と優位性とを示すため、
法律制定に由来する DA を出すことが多かったのですが、そこでややこしい議論
がいろいろ発生していました。そのときの様子を以下のページに書き残しておき
ました。参考までに。

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3. 百花繚乱のカウンタープラン
http://www002.upp.so-net.ne.jp/ahiroe/debate/1991f-1992s.html#5_3
5. カウンタープランを成立させるための「小さな DA」
http://www002.upp.so-net.ne.jp/ahiroe/debate/1991f-1992s.html#5_5
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Practicality と workability との説明は、これで終わりです。
今回書いた中で特に強調したいのは「一貫性」です。つまり、自分の出した
複数のイシューの間で主張が一貫していないと、単に時間を損するだけでな
く、自分で自分の首を絞めてしまう場合さえもあり得るということです。
こういったことは試合中に考えているようでは手遅れで、イシューを作る段階
で十分考えておく必要があります。
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今回はここまでです。以上で、『Practicality と workability』の再掲は終わりです。


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