「十把一絡げ」からの脱却を [ディベート]
久しぶりの更新になります。JDAの秋大会が近づいてきたので、簡単なアドバイスを書きます。
自分がディベートをしてきたことで発想にどんな変化があったかを一点だけ挙げると、「十把一絡げな発想をしていることに気がつきやすくなった」というものがあります。つまり、多種多様なはずのものをあたかも一種類しかないかのように扱っているときに、「自分は今、十把一絡げな発想をしているな」と気づきやすくなったということです。
(ちなみに、「十把一絡げ」は「じっぱひとからげ」で変換できます。)
慣れないうちは、十把一絡げな発想に基づいた主張をしてしまいやすいのですが、そこから脱却することで、強い主張や反論ができるようになる――というのが、今回の趣旨です。
「十把一絡げ」の例
今回の原発廃止の論題であれば、以下のような主張が出てくることでしょう。
- 日本の原子力関連技術は世界一進んでいる/進んでいない。
- 自然エネルギーは原子力の代わりになる/ならない。
- 原発が立地している地域への補助金は、地域の発展に役立っている/いない。
本来、「原子力関連技術」「自然エネルギー」「原発が立地している地域」はそれぞれ多種多様なはずですが、上記では十把一絡げに扱っています。
こういう「十把一絡げ」な主張は、そもそも強くありません。例えば1点目の「日本の原子力関連技術」について問題点を挙げると、以下の通りです。
- 「日本の原子力関連技術」といってもピンからキリまであるのに、それらが全て世界の最先端を行っているという主張は現実からかけ離れている。(同様に、「優れている技術は皆無」という主張も現実からかけ離れている。)
- イシューの先頭(例えば DA の最初のカード)にこの主張があると、そこが否定されただけでそのイシュー全体が成立しなくなったような印象をジャッジに与えてしまう。
- 後述の通り、「十把一絡げ」の原因はリサーチ不足にあることが多いので、同じイシューの他の部分でもアラが見えてしまうことがある。
類似の現象としては、用語や概念の混同というものもあります。例えば「放射線」「放射能」「放射性物質」はそれぞれ意味が違います。しかしそれらを混同していると、リンクが繋がっていないイシューを作ってしまったり、無意味な反論をしてしまったりします。(「放射 *能* 漏れが発生する」という主張に対して「放射 *線* 漏れはない」という主張で反論したつもりになっているなど。)
「十把一絡げ」の原因
十把一絡げな発想をしてしまう原因は、「よく知らないから」につきます。人間は、よく知っているものは細かく分類しますが、よく知らないものは大雑把にしか分類しない(できない)ものだからです。日常生活を送る分にはそれで不自由しませんが、ディベートにおいてその発想をしてしまうと、主張として弱くなってしまいます。
余談ですが、私が大学生だったころ、別の大学のディベーターに「ディベートをやっている人は経済学部か理系が多いですね」と言われて絶句したことがあります。その人は文学部で私は工学部でした。その人にとっては、経済学部は文学部と同じ文系ということで学部単位に分類したのに対し、工学部は馴染みがないので大雑把に「理系」と分類したのでしょう。
「十把一絡げ」への対策
一言で言ってしまうと「もっとリサーチして詳しくなりましょう」なのですが、それでは身も蓋もないので、別のコメントを。
まずは、自分の発想が「十把一絡げ」に陥っていないかどうかを判断することです。そのためには効果的な方法がありまして、それは具体例をどれくらい挙げられるかで判断するというものです。
例えば「原子力関連技術」として、具体的な技術を挙げられるでしょうか? あるいは「自然エネルギー」の具体例はどのくらい挙げられるでしょうか?(太陽光発電と太陽熱発電の違いは説明できるでしょうか?)――こんな問いに対してうまく答えられなかったら、自分はこの件についてよく分かっていない、つまり十把一絡げな発想をしている可能性が高いと思ってよいでしょう。
(白状しますと、上で「十把一絡げ」の例を挙げようとしたとき、2件め以降がなかなか思いつきませんでした。つまり私は、今回の論題で出てきそうな議論についてあまり把握していなかったのです。)
自分が詳しくない箇所が分かったら、そういった箇所を重点的にリサーチします(当然ですが)。
では、詳しくなって具体例をいろいろ挙げられるようになったり細かく分類できるようになったとして、どうやって議論に反映させたらよいでしょうか?
ノウハウを一つ挙げると、「該当例が一つでも存在すれば我々の勝ち」みたいな構成にすることです。例えば、DA のシナリオが「今までは日本の優れた原子力関連技術を輸出することで海外での事故を防いでいたが、日本の原発を廃止すると輸出が止まってしまって海外で事故が起こる」みたいなものとすると、何も「日本の原子力関連技術は世界一ィィィ」と主張する必要はなく、海外での事故防止に貢献する可能性のある技術を具体的に挙げればよいのです。(今から原発を廃止しても過去の貢献が消えるわけではないので、DA にしたかったら「今後の貢献ができなくなる」みたいな主張に繋げる必要があります。)
一方で、「日本の原子力関連技術は世界一進んでいる」みたいな十把一絡げな主張に反論するときは、何も「優れている点など皆無」と主張する必要はなくて(これまた十把一絡げ)、「優れている点はあっても、それは日本の地理などに特化したものであり、海外では役に立たない場合もある」(例えば耐震技術は地震のない国では不要)みたいな主張で十分ですし、その方が現実に基づいた強い主張になります。
(この手の DA を、私が学生の頃は『インターナショナル セーフティ カルチャー』と呼んでいました。)
――今回はこんなところで失礼します。
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