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外国人労働者の論題についてのアドバイス――プラン編(2) [ディベート]

(以下では、AD は “advantage”(利益)を、DA は “disadvantage”(不利益)を表わします。)


今回の「外国人労働者」の論題の下で、具体的に何を行なうのか、そして今の制度と何が異なるのかが明確に分かるようにするためには、プランをどのように書けば分かりやすいのかについて、続きを書きます。

現在の制度をどの程度残すかによってプランの書き方が変わってきますし、それに伴ってケースの構成も異なってくるでしょう。大きく3通りほど考えて見ました。

なお、最初に断っておきますが、以下はあくまで「ディベートの試合でケースとプランを出すなら、こうした方が聞き手に分かりやすいだろう」という観点で書いています。(専門家ではないので、本当に外国人労働者の労働を許可するとなったときに以下のような手続きをするかどうかは、分かりません。)

現在の在留資格を生かす場合


既存の在留資格の内、「定住者」や「特別活動」を申請者に渡すというものです。どちらの資格も現在は発行に制限があるので(申請すれば誰でも取得できるというわけではない)、その制限を緩和するという点が現在との違いとなります。

例えば「定住者」の資格であれば、以下のようなケースとプランが考えられるでしょう。

  1. 在留資格の中には「定住者」というものがあり、この資格を持っていればどの職種に就くこともできる。
  2. しかし現在は、「定住者」の資格を取得でき人には制限があり(日系人や難民など)、それ以外の人が申請しても却下されてしまう。
  3. その結果、いろんな問題が発生している。(不法就労に由来する問題)
  4. そこで、申請者が一定の条件を満たしていれば、どこの国の人であっても「定住者」資格を発行するようにする。(これがプラン)
  5. 「定住者」の資格を持っていればどの職業にも就けるので、不法就労に由来する問題は解決する。(「逆は必ずしも真ならず」なので、この点も証明が必要)

上で「この点も証明が必要」と書きましたが、証明は比較的簡単で、現在既に「定住者」の資格を持っている人達(主に日系人)がどのような環境で働いているかを調べ、不法就労よりもマシであることを示せばよいのです。


次に、「特定活動」という在留資格を発行するというプランについて考えてみます。「特定活動」は「法務大臣が個々の外国人について特に指定する活動」というものですから、プランを「原則全ての職種において~認める」と呼べる代物にするためには、若干の工夫が要ります。例えば、「申請者が希望する職種についてのみ就労を許可する『特定活動』資格を発行する」というのはどうでしょうか。具体的な例を挙げると、外国人である申請者が高齢者の介助を希望する場合には、その職種のみ「特定活動」として許可するような在留資格を発行するといった感じです。

(ケースの構成については省略します。)


在留資格を再編する場合


既存の在留資格を流用する代わりに、まさに「原則全ての職種において~認める」ための資格を新たに用意し、それを発行するというプランも可能です。(既存の在留資格は、必要に応じて廃止・統合します。)

この場合、ジャッジが「定住者」という在留資格を知っているなら「今の『定住者』と何が違うのか?」という疑問を持つでしょうし、否定側は「『定住者』という資格を与える」というカウンタープランを出してくる可能性もあります(トピカルだという気もしますが)。ケースには、そういったことへの対策を予め組み込んでおく必要があるでしょう。

「対策」として有効なのは、「定住者」を始めとする現在の在留資格の欠点を指摘し、それを解決する手段として新しい在留資格を発行するという流れにすることです。


  1. 現在の在留資格、特に「定住者」には制度上の欠陥があり、それが原因でいろんな問題が発生している。
  2. そこで、欠陥を解決した新しい在留資格を用意し、それを発行する。

この流れなら、「定住者」との違いも明確ですし、カウンタープランに対する反論にもなっています。
また、否定側が「『定住者』の資格を持っていても、問題は解決しない」みたいな資料を出しても、それは無意味です。(むしろケースの分析の一部なので、肯定側はうかっり反論しないように。)


……ただ、書いてはみたものの、このケースをサポートする資料が見つかるかどうかは分かりません。後述の「ギャップ」論題での資料探し」でも書きますが、現在の在留資格の欠陥を指摘する資料なら見つかるかもしれませんが、新しい在留資格や、そこからの解決性を示す資料となると、はたして見つかるかどうか……。


もっと大きな変更


在留資格の新設程度ではなく、外国人の労働や入国に関する基本的な方針を転換してしまうようなプランも、一応は可能です。

現在の日本において、外国人の労働や入国に関する方針の特徴を挙げると、以下の通りです。

  • 日本への入国の前に、予め申請して在留資格を取得する必要がある。申請をしないと、、「短期滞在」と見なされる(査証免除取決めを締結している国から来た場合)か、入国を拒絶される(それ以外の国から来た場合)かのどちらか。
  • ほとんどの在留資格には有効期限があり、期限を過ぎると失効してしまう。
  • 日本の入国管理方針は出入国管理型(入国時に在留と就労の資格をまとめて審査する形態)であるため、在留資格が失効すると、働くことだけでなく日本に滞在していること自体も違法となってしまう。

この特徴からの違いが大きいほど、現在の制度からの変更が大きくなります。例えば、日本にやってくる外国人に対して、以下の3点を満たす資格を無条件に与えるようなプランは、ものすごい変化を含んでいるわけです。

  1. 入国前の申請なしで、
  2. あらゆる職種で働くことが可能で(=合法で)、
  3. しかも期限は無制限。

このようなプランを、ADと DA とを考慮した上で出す分には別に構わないのですが、もしリサーチ不足によって何となくこんなプランになってしまったのだとしたら、プランを考え直すことをお奨めします。余計な DA を防ぐためには、特別な理由がない限り、プランによる変化を最小限にとどめた方が無難ですから。


「ギャップ」論題での資料探し


ここまで読んで、「プランの内容を決めるだけでもリサーチが必要なの?今までそんなこと考えたこともなかったのに」と思った人も少なくないと思います。そのようなリサーチが必要となるのは、論題が抽象的に書かれていてそのままではプランとして通用しない場合です。私はそのような論題を「ギャップ」論題と呼んでいます。(逆に、具体的に書いてある論題は「そのまんま」論題と呼んでいます。)

「ギャップ」論題の下でケースを作成する場合、「そのまんま」論題とはやや異なる手順やコツが必要になります。以下では、そんな点を紹介します。

「ギャップ」論題でケースを作る際に必要となる資料を、私は便宜的に3つのグループに分類しています。

  1. 現在の問題点を指摘している資料
  2. 問題を解決するために、何か新しい提案をしている資料(プランみたいなもの)
  3. 提案によって問題が解決することを示している資料

2のグループが、「ギャップ」論題でユニークに必要となる資料です。重要なのは資料の量で、一般に、1の資料は大量に存在しますが、2 の資料はそれよりも少なく、3 の資料はさらに少なくなります。

「新しい提案をしている人は、それによって問題が解決することも示しているのでは?」と思うかもしれませんが、「~すべきだ/しなければならない/する必要がある」という表現で終わっている資料が決して少なくないのです(評論家や社説など)。これは、ブランの導入部分や内因性(inherency)の証明にはなっても、解決性(solvency)にはなりません。

具体的なプランやそれに対応した解決性がないと AD の証明にはなりませんから、ケースを作るときは、上記 2 や 3 のグループに相当する資料を優先的に探し出す必要があるということです。(1のグループの資料はたくさんありますから、後から探しても十分に見つかります。)

参考までに、私が1993年春に外国人労働者のモデルケース作りに参加したときの経験を書きます。3のグループに属する資料として、「アムネスティーを行なうと……」や「公務員の通報義務を廃止さえすれば……」みたいなものは比較的早期に見つかったため、この2点をプランと解決性に入れることは早い段階でほぼ決まりました。ただ、それ以外にどんな要素をプランと解決性に含めるかは、良い資料がなかなか見つからなかった記憶があります。

(白状すると、1990年に「定住者」という在留資格が新設され、主に日系ブラジル人が単純労働の仕事に従事するようになっていたのですが、当時はリサーチ不足でそのことを知りませんでした。そのため、モデルケースのプランにも解決性にも「定住者」についての話は出てきません。)


――非常に長くなりましたが、これで、今回の論題の下でのプランの書き方(およびケースの作り方)に関するアドバイスを終わりにします。

なお、「定住者」という、就労制限のない在留資格が既に存在していることと、ディベートにおけるいわゆる“pseudo inherency”との関係については、今回あえて言及を避けています。機会があったら書くかもしれません。


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